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秋田地方裁判所 昭和60年(行ウ)5号 判決

原告 池内敏雄 外三名

被告 山本町選挙管理委員会

補助参加人 田村彦孝

主文

一  被告が、秋田県山本郡山本町町長田村彦孝解職請求者署名簿の署名のうち

(1)  別表一のうち、署名通し番号二四九番、二五〇番、二五一番、二五三番、五六六番、五六七番、七九一番、一一三三番、一一四六番、一一五三番、一二四五番、一四七五番、一五〇九番、一六〇五番、一六五二番、一六五九番、一七七五番、一八〇八番、一八一九番、一九六六番、二〇四二番、二〇四三番、二二三四番、二二七二番、二二七三番、二三〇五番、二三一七番、二三九七番、二四五八番、二四六〇番、二四九四番、二四九八番、二五二五番、二五四七番、二五八九番、二五九一番、二五九三番、二六〇八番、二六一〇番、二六一一番、二六一二番、二六一四番、二六九六番、二六九九番

(2)  別表二(一)及び(二)

(3)  別表三(一)のうち、署名通し番号一四六番、一二五五番、二二五七番、二四一三番、同(二)のうち、署名通し番号一二六二番、二七五三番

(4)  別表四(二)のうち、署名通し番号一〇九七番、一三五二番、二七三一番、二七三二番、二七三三番、二七三五番、二七三六番、二七四〇番、二七四四番

(5)  別表五のうち、署名通し番号二一七〇番、二五〇〇番、二八〇四番

(6)  別表六

(7)  別表七

の各氏名欄記載の者の署名に関する異議に対し、右各表の決定日欄記載の各年月日をもつてした決定をいずれも取り消す。

二  前項記載の者の署名がいずれも有効であることを確認する。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用中、原告らと被告の間に生じた部分はこれを三分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とし、補助参加によつて生じた部分はこれを三分し、その一を原告らの、その余を補助参加人の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、秋田県山本郡山本町町長田村彦孝解職請求者署名簿の署名のうち、別表一ないし七の氏名欄記載の者の署名に関する異議に対し、同表決定日欄記載の各年月日をもつてした決定をいずれも取り消す。

2  別表一ないし七の氏名欄記載の者の署名はいずれも有効であることを確認する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、秋田県山本郡山本町町長田村彦孝(以下「田村町長」という。)の解職請求代表者であるが、昭和六〇年二月二〇日から同年三月一九日までの間に、別表一ないし七の各氏名欄記載の者(合計一五一人)を含む合計二八四三人の有権者から田村町長の解職請求の署名を収集し、同年三月二一日、右署名簿を被告に提出した(なお、以下において個々の署名者を示すのに使用する番号は署名簿の通し番号である。)。

2(一)  被告は、同年四月一〇日、右のうち別表一、同表三(二)、同表四(二)及び同表七の各氏名欄記載の者の署名を無効と決定した。これに対する関係人の異議の申立に対し、被告は、右各別表の各決定日欄記載の日に各理由欄記載の理由でいずれもこれを棄却する旨の決定をした。

(二)  被告は、同年四月一〇日、別表二(一)及び(二)、同表三(一)、同表四(一)、同表五並びに同表六の各氏名欄記載の者の署名を有効と決定したが、右決定に対する関係人の異議の申立に対し、被告は、右各別表の各決定日欄記載の日に各理由欄記載の理由でいずれもこれを認容して、右各署名を無効とする旨の決定をした。

3  しかしながら、別表一ないし七の各理由欄記載の理由はいずれも事実に反し、被告の前記各決定は違法である。

すなわち、

(一) 別表一記載の各署名は、それぞれその名下に拇印を押捺しているものであり、それが何人のものであるか識別できるものであることが検認できるものである。

(二) 別表二(一)及び(二)の署名については、郵便又は電話による署名取消の申出があつたというのであるが、署名の取消は、署名簿提出前に署名者本人が請求代表者に申し出て署名簿を自ら抹消することが必要であるところ、右署名者らは、いずれも署名簿提出後の昭和六〇年三月二二日に申し出てきたものであり、かつ、自ら抹消のため赴いたことはないのであるから、いずれにしても、署名の取消があつたとはいえない。

(三) 別表三(一)及び(二)の署名は、いずれも署名者が自署し、押印したものである。

(四) 別表四(一)及び(二)の署名は、いずれも署名収集受任者によつて収集されたものである。

(五) 別表五及び六の署名は、強迫又は詐偽によるものではない。

(六) 同表七の署名は、その氏名が容易に判続できるものである。

4  田村町長の解職請求に必要な有効法定署名者数は二五六四人であるところ、原告らは、前記のとおり二八四三人の署名を収集し、これを被告に提出し、同年四月一〇日右法定数を上回る二五九九人の署名が有効とされながら、その後の異議申立に対する被告の恣意的な判断に基づく前記決定によつて、二五三〇人の署名のみを有効と認め、もつて本件解職請求を不成立ならしめたものである。

5  よつて、原告らは、別表一ないし七の各氏名欄記載の署名に関する異議に対して被告がなした前記各決定の取消及び右各署名がいずれも有効であることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項のうち、原告らが二八四三名の有権者から田村町長解職請求の署名を収集した事実は否認し、その余の事実は認める。但し、原告らが右同数の町長解職請求者署名簿を被告に提出した事実は争わない。

2  同2項の事実は認める。

3  同3項の事実は否認する。

4  同4項のうち、田村町長の解職請求に必要な有効法定署名者数が二五六四人で、被告が昭和六〇年四月一〇日に二五九九名の署名を有効としたが、その後異議申立により有効署名者数を二五三〇名と決定した事実は認めるが、その余の事実は否認する。

三  被告の主張

1  別表一(拇印による署名)について

被告は、署名が印鑑の押捺によらず拇印によることも有効であるとの前提の下に、その拇印が他の拇印(指印)と異同の識別ができる程度に顕出されていることを有効・無効の決定基準とした。その場合に、他人の指印との異同の識別ができるか否かの判断基準として外国人登録事務取扱の際の指印の判断基準が参考とされる。右基準によると、押し損じ・指の先端部分のみ・インクが薄い・インクの延ばし方にムラがあつたりインクが濃すぎる・二重押捺などの場合は、押し直しをさせることになつている。

本件署名の有効・無効決定においても、この取扱要領を参考とすることが適切かつ合理的であるので、被告においてはこの取扱要領に準じて決定したものである。その際、拡大しなければ識別できないものは、当然無効とすべきであり、敢えて被告においてこの指印を数倍に拡大したうえで有効・無効を決定すべきものではない。

別表一の各署名は、その署名下の拇印がいずれも不鮮明で他との識別が困難であるから、無効である。

2  別表二(署名の取消)について

(一) 署名者が署名時点では自己の意思に基づいて署名したとしても、その後、その署名簿を選挙管理委員会に提出するまでに本人の申出があれば取消ができることは、地方自治法施行令九五条の規定するところであり、別表二(一)及び(二)の氏名欄記載の者は、いずれも適法の取消請求をしたものであるから、これらの者の署名は無効である。

(二) 別表二(一)の氏名欄記載の者は、いずれも昭和六〇年三月一九日に郵便にて解職請求代表者である原告池内敏雄に対し署名取消の申出をなし、右各郵便は同日同原告のもとに配達されたが、同原告がその受取を拒否したものである。署名の取消は、自ら出頭して取り消す場合のみならず、郵便による取消も有効であり、解職請求者において取消の申出を拒むことはできないのであつて、同原告が郵便の受取拒否によつて取消の申出を拒否したことは違法であり、右各署名者の署名は法令に定める成規の手続によらない署名であるから無効である。なお、右郵便の宛名の原告池内の肩書に原告ら主張のような「黙つていられない会」との記載があつたとしても、請求代表者に客観的に到達したものと認められ、署名取消の意思の瑕疵にはならない。

(三) 別表二(二)記載の佐藤悦子は、昭和六〇年三月一九日、署名収集受任者である佐藤鋭助に対し電話で取消の申出をし、右佐藤鋭助において右申出を受諾したものである。署名者としては、直接の受任者以外に解職請求代表者と面識が無く、受任者を通じて取消申出をする場合も考えられ、受任者がその申出を応諾したときは、これによつて受任者において誠実に取消手続をすべきものと解される。また、署名簿が受任者のもとにあるか解職請求代表者のもとにあるか判然としないときは、受任者に対し取消の申出をすることも許されると解すべきである。佐藤悦子の署名取消の申出については、受任者である佐藤鋭助が右申出を受諾したのであるから、解職請求代表者宛の取消の申出をしなくとも有効な取消の申出がなされたものと同視できるのであり、佐藤悦子の署名は無効である。

3  別表三(自署でない)について

(一) 別表三(一)の氏名欄記載の者のうち、畠山香代は文字を書けない者であり、新堀清太郎は署名当時出稼ぎ中で署名することが不可能であつた者であるので、いずれも自署とは認め難く、金子悟は自署ではあるが押印しておらず、その余の者については、各署名者本人からの異議申出により審査の結果、いずれも自署と認められなかつたものである。

(二) 別表三(二)の氏名欄記載の者のうち、桜庭サヱ及び佐々木エスは文字を書けない者、新潟嘉太郎は寝たきり、河田ヒデは危篤の状態で入院中で、いずれも文字を書ける状態になかつた者で、右四名の署名は自署とは認められず、近藤留吉及び高橋アイは、被告の審査の結果、近藤留吉については自署しておらず、高橋アイについては押捺していないものと判断されたのであつて、以上の署名はいずれも無効である。

4  別表四(受任者以外の者の署名収集)について

(一) 別表四(一)の氏名欄記載の三名のうち、茎沢正幸(受任者茎沢久信)及び新潟ヒデ(受任者寺山良秋)については受任者以外の者が署名を収集しており、湊静江(受任者湊政彦)については署名当時仙台に滞在していた者で、郵送による署名収集であるから、いずれも無効である。

(二) 別表四(二)の氏名欄記載の一二名についても、いずれも受任者以外の者が署名を収集したもので無効である。

すなわち、伊藤千代子については受任者が池内桂となつているところ実際の収集者は伊藤泰男であり、佐々木キヱについては受任者が阿部源孝であるところ田中長一郎が収集し、近藤喜美雄、同和男、同純子、同金良及び同トヨ子については受任者が寺山良秋であるところ近藤喜美雄が収集し、その余の五名については受任者が三村一雄であるところ近藤常幸が収集したものである。

なお、近藤兼松、同ヨシヱ及び同常幸の各署名は、いずれも近藤幸子の代筆であり自署ではないから、この点からも右三名の署名は無効である。この事実は、被告の調査中に既に判明していたものであるが、この事由以外に受任者以外の者の収集による署名である事実も認められたので、敢えて二つの無効事由を列挙しなかつただけである。

5  別表五(強迫による署名)及び同表六(詐偽による署名)について

別表五及び六の各氏名欄記載の者については、各署名者から強迫又は詐偽による署名であるとの申出があり、被告において審査の結果、次の各事実を認定して右各申出を正当と認めたものである。

(一) 別表五関係

(1) 田村靖子 署名者の家族一同リコールには反対であつたところ、叔父で受任者である山田孝雄が家族の留守のときに来訪し、署名者に対し署名を迫り、私生活まで言及して強迫し、また、「誰にも知られないから」と言って署名させた。仮に強迫でないとしても、詐偽による署名である。

(2) 嶋田幸子 署名者はリコールに反対であつたところ、仕事(クリーニング業)の関係で旅館五月館に集金に行つた際、丸富ホテルからの圧力で署名しなければ今後当館の取引を差止めるといわれて強迫され、署名した。

(3) 信太与子松 署名者はリコールに反対であつたところ、病床で看護してもらつた嶋田シズエから書くように責められ断わり切れずに署名した。

(4) 嶋田靖忠 署名者はリコールに反対であつたところ、仕事(クリーニング業)の関係で丸富ホテルに集金に行つた際、社長から、署名しないと今後当ホテルとの取引を差止める、本日の支払はできないと言われ、生活上の不安を感じて署名した。

(5) 小山内劉治 署名者はリコールに反対であつたところ、安藤良治から商売(塗装業)のことで署名すれば仕事がもらえると言われ、書くように強迫され、また、一切公表しないし誰にも分らないとだまされ署名した。仮に強迫にあたらないとしても、詐偽による署名である。

(二) 別表六関係

(1) 大越ユキ 署名者はリコールに反対であり、受任者湊哲茂が何度も来訪して署名を求めた際にも家族一同これに応じなかつたが、道端で右湊と出会つた際、同人から署名者の夫の承諾を得たと言つてだまされ署名した。

(2) 杉本てるよ 署名者は、受任者金野春男から、名前だけ書かせて保管しておくもので見せるものではないと言われ、同人が署名者から印を取り押したものである。

6  別表七(氏名判読不能)について

別表七記載の島田昭子については、その署名自体から判読不能であることが明白であり、無効である。

四  被告の主張に対する原告らの反論

1  別表一について

被告は、別表一の各署名につきいずれも指印が不鮮明で他との識別が困難であるとの理由で無効とし、その判断基準は外国人登録事務取扱要領に依つていると主張するが、右主張は、法制度の趣旨、目的の相違を無視するものである。

すなわち、外国人登録における「指紋押捺」は、外国人の不法入国あるいは不正登録を防止するのを建前として、個人の同一性を識別するための手続手段として採用されたものであり、ここでは誰の指紋かを厳格に識別し得るものでなければ功を奏しない。他方、解職請求等の直接請求における「指印」は、制度本来の趣旨からすれば、直接請求に真実賛同する旨の意思表示として有効なものであるか否かが肝心なのであるから、自署さえあれば充分と考えられるが、我国の長年の慣行から「印」、若しくはこれに代わる「指印」が押されてはじめて本人の意思の確立があつたものと取り扱つているにすぎない。このように、外国人登録の「指紋押捺」はまさしく登録外国人の同一性を判断する手段とされているのに対し、直接請求の「私印もしくは指印」は、署名者本人の意思によるものか否かの一つの判断、確認材料にすぎないのであり、制度目的が全く異なつている。

解職請求の場合の指印については、印章による押捺の場合に、署名者の氏名と関連性を欠いていたり、家族について同一の印章が用いられていても、本人の意思に基づく押印であれば有効と解され、他との識別ができない場合のあることを当然のこととしていること、指印について他との異同の識別には特別の鑑識能力を有すること、解職請求制度が解職のためのワンステツプにすぎないことなどを考慮すると、人の指印による押捺であることが認められれば足りるものと解すべきである。

2  別表二について

(一) 直接請求における署名簿に一旦行なつた署名を取り消し得ることは、地方自治法施行令九五条によつて明らかであるが、それは、第一に請求代表者が同令九四条一項によつて署名簿を選挙管理委員会に提出するまでの間で、第二に「請求代表者を通じて取り消す」ことによつてのみなし得るのである。右「請求代表者を通じて取り消す」とは、署名者本人が請求代表者に申し出て署名簿の署名を自ら抹消することによつて取り消すことを意味するのであり、署名取消には署名者本人の次の二つの行為、すなわち、(1)解職請求代表者に対する取消の意思表示をすること、(2)署名者本人が署名簿の署名及び印を自ら抹消するという事実行為をすることが要求される。このことは、解職請求の署名収集を請求代表者又は受任者がしなければならず、かつ本人の自署が要求されることに対応するものであり、解職請求手続の署名についてこのように本人の自由意思、他人の不介入を担保するために厳重な手続が要求されている以上、署名収集と表裏の関係にある署名の取消についても厳格な手続が要求されるものというべきである。署名取消にあたり署名者に要求される右二つの行為のうち、請求代表者に対する取消の意思表示は郵送によつてもなし得るが、署名の抹消の方は、署名者が現実に請求代表者又は署名簿を保管している受任者のもとに赴いて抹消の申出をなすことが必要であると解すべきである。もし被告主張のごとく、有効な署名を取り消すためには郵送による申出だけで足りるとすれば、厳格な手続を経て一旦有効に成立した署名が本人の自由意思に基づかず他人の介入によつていともたやすく取り消されるという事態が起こり得るのである。

(二) 本件においては、そもそも署名者本人からの適法な署名取消の申出はなく、したがつて被告主張の「郵便物の受取拒否」は、署名取消申出の拒否にはあたらない。

すなわち、原告らは、本件解職請求者署名簿を昭和六〇年三月二一日被告に提出したものであるが、その前日の同月二〇日、「山本町の現状にだまつていられない会」(以下「だまつていられない会」という)会長池内敏雄宛に約四〇通の郵便物が配達された。しかし、その差出人の中には署名者でない者もあり、当時「だまつていられない会」宛に脅迫めいた文書が送付されて来たこともあつて、「だまつていられない会」としては、これらの郵便物を受領してもその扱いをどうしていいかわからず、結局開封しないまま(すなわち内容を確認できないまま)郵便配達員に対しその受取を拒否した。被告主張の「郵便物の受取拒否」又は「署名取消申出の拒否」とは、右の事実にほかならないのである。なお、原告らが被告に署名簿を提出した翌日である同月二二日、今度は宛先を「だまつていられない会」の横に「山本町長解職請求代表者池内敏雄殿」と記入した郵便物が配達されたが、右時点では既に署名簿提出後であつたため、原告池内としては如何とも扱いようがなかつたものである。また、後日原告らが知り得たところによれば、前記郵便物は、「本書をもつてリコール署名の撤回を通告する」との「通告書」であり、しかもそれは、町長派運動員が、本文はもとより宛先もタイプ印刷した文書を持ち歩き、別表二(一)の氏名欄記載の署名者らを含む約四〇名らをして単に署名押印のみさせ、これを集めて右運動員自身が「だまつていられない会」宛発信したものである。

(三) 別表二(二)記載の佐藤悦子の署名を被告が無効と判断したのも、単なる取消の意思表示と署名の抹消行為とを混同した被告の署名取消についての誤つた理解に基づくものである。また、佐藤鋭助が佐藤悦子からの電話による取消の申出を受諾した事実はない。

3  別表三について

別表三についての被告の主張は争う。

なお、別表三のうち金子悟の署名については、同人がその勤務先で署名した後、受任者の池内俊介に対し、事務員に預けてある印鑑を押してもらつてくれと頼み、池内が右金子の言に従い、同室して右事情を了解していた事務員から金子の署名下に押印してもらつたものである。押印は必ずしも自分の手で印章を押捺することを必要とするものではなく、自己の意思に基づき他人を機関として自己の印章を押捺させても無効ではないと解されるところ、金子は池内及び事務員を自己の機関として自己の印章を押捺させたものであるから、同人の署名は有効である。

4  別表四について

別表四についての被告の主張のうち、同表氏名欄記載の者の署名についての受任者が被告の主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

なお、仮に別表四(二)の近藤兼松、近藤ヨシヱ及び近藤常幸の署名が近藤幸子の代筆であるとしても、被告は当初これを受任者でない者の収集によるものと認めて無効としたものであり、自署か否かは全く問題となつていなかつたのであり、右無効決定に対する異議申立後に自署でないとして無効扱いにするのは不当である。

5  別表五、六について

別表五、六についての被告の主張は争う。

付言するに、別表六の杉本てるよの署名は、同人が受任者金野春男から「この署名は見せる物ではない」と言われてした詐偽による署名であるとして被告は無効としたが、地方自治法七四条の三第二項にいう「詐偽」とは「署名の目的を偽つて署名を求めるような行為を指すものと解すべく(中略)選挙人が解職請求の目的をもつて署名した以上、その署名を詐偽に基づく署名であるということはできない」(最高裁判所昭和二八年一一月二〇日判決、民集七巻一一号一二五五頁)のであるから、仮に被告主張事実が認められるとしても、杉本が解職請求の署名であることを認識して署名した以上、詐偽による署名にはあたらない。

なお、別表五の田村靖子及び小山内劉治の署名につき、被告は、強迫のほかに詐偽による署名であるとの主張もしているが、右各署名についての被告の原決定では詐偽という理由は示されておらず、本件訴訟においてこれを追加して主張することは許されない。

五  補助参加人の主張

1  別表一について

(一) 被告は、拇印の識別の可否の判断につき、(1)指紋の渦巻・流紋が顕出されている大きさの指紋であること、(2)外国人事務取扱要領に準拠した鮮明度を有する指紋であること、以上二個の基準を設定し、右判断基準に即して各拇印の識別の可否を判断したものであるが、ある拇印と他の拇印との異同を識別するためには、識別可能な鮮明度を有し、かつ渦巻・流紋によりその個別性が顕出されている指紋であることが条件とならざるを得ず、したがつて、被告の右判断基準は正当である。

被告は、委員四人が拇印の識別の可否に関する意見が一致するまで合議し、時間をかけて慎重に検討したうえで結論を出しているものであるところ、前記判断基準に即して別表一記載の者の各拇印の識別の可否を判断するに、朱肉が濃すぎたりして識別可能な鮮明度を保持していなかつたり、渦巻・流紋による個別性が顕出されていなかつたりで、いずれの拇印も他の拇印との識別は不能と評価せざるを得ないもので、これらを無効とした被告の判断に誤りはない。

(二) 別表一の氏名欄記載の者のうち、近藤テイ(二四〇一番)の署名は、本人が署名・押印ともしておらず、他人による代筆・代印であり、高橋正(二四九八番)の署名は、本人自身が拇印を押印しておらず、他人による代印である。

したがつて、右両名の署名は、右の点からも無効である。

2  別表二について

(一) 別表二(一)の氏名欄記載の者については、各署名者本人から昭和六〇年三月一九日付郵便にて「山本町の現状にだまつていられない会」会長池内敏雄宛に、署名の取消の申出がなされたところ、右池内(原告)は、署名簿提出前の同月二〇日右郵便の受取を拒否したが、地方自治法行政実例において、郵送による署名の取消の申出も認められ、解職請求代表者に郵便物が到達したと客観的に認められる限り、有効に署名の取消の申出がなされたものと解され、解職請求代表者は署名の取消の申出を拒み得ず、取消を拒否した場合には、地方自治法七四条の三第一項一号により署名の無効原因に該当するとされている。

ところで、右郵便物は、解職請求代表者池内敏雄宛のものではなく、「山本町の現状にだまつていられない会」会長池内敏雄宛のものであるが、両者は別人格者ではなく同一人であること、「山本町の現状にだまつていられない会会長」は単なる肩書にすぎず、署名の取消に関する文書である性質上、それは「解職請求代表者たる」池内敏雄宛の文書と判断されること、右郵便物が一旦原告池内の手元に届けられていることを総合勘案すると、右郵便物の宛名の形成的瑕疵は合理的解釈により解消するものというべきである。

右郵便物が配達された当時、署名の取消をする者が出現しており、かつ大量の取消をする人間を集めているとの風評が流れていたのであり、これらの事情を考えると、原告池内は右郵便物が署名の取消に関するものであることを容易に察知し得る状況にあつた。このような状況下で原告池内が右郵便の受取拒否をしたことは違法といわざるを得ない。

したがつて、別表二(一)の氏名欄記載の者からの署名取消の申出は、昭和六〇年三月二〇日解職請求代表者の原告池内に到達したものというべきであり、同原告の受取拒否は違法であるから、右各署名は法令の定める成規の手続によらない署名として無効なものである。

(二) 別表二(二)記載の佐藤悦子については、同人は、署名後署名簿提出前に、受任者佐藤鋭助に対し電話で明確に署名取消の申出をしたにもかかわらず、佐藤鋭助は取消を思い止まらせようと対処し、佐藤悦子の強い署名取消の意思をないがしろにした。また、佐藤悦子からの署名取消の申出は、受任者を介して原告池内にも伝わつていた。にもかかわらず、原告池内や佐藤鋭助は、佐藤悦子に対し適切な措置を説明することもなく、自己の署名は取り消されたものと勘違いしている同人の署名取消の申出を闇に葬つてしまつたのである。

以上のごとき措置は、署名取消の申出を拒絶したに等しく、法令違反行為であり、佐藤悦子の署名は法令の定める成規の手続による署名とは認め難いから無効である。

3  別表三について

(一) 次の者は、証拠調べの結果、自署でないことが明らかである。

(1) 石川ヨスヱ(二八三一番)

(2) 近藤留吉(三九八番)

(二) 次の者は、証拠調べの結果、押印を本人がしていないことが明らかである。

(1) 金子悟(二四一三番)

(2) 高橋アイ(一二五三番)

(三) 次の者は、証拠調べの結果を踏まえても、自署でないと判断される。

(1) 高橋ヒサヨ(一二五五番)

(2) 石川友一(二八三〇番)

(四) 次の者は、証拠調べの結果を踏まえても、自署であることの立証は尽くされていない。

(1) 新堀清太郎(二二五七番)

(2) 桜庭サヱ(一二六二番)

(3) 新潟嘉太郎(二七五三番)

4  別表四について

(一) 次の者は、証拠調べの結果、受任者以外の者の署名収集であることが明らかである。

茎沢正幸(二一八七番)

(二) 次の者は、証拠調べの結果、郵送による署名収集であることが明らかである。

湊静江(二八一〇番)

(三) 次の者は、証拠を総合検討すると、受任者による署名収集ではないと思料される。

(1) 伊藤千代子(一〇九七番)

(2) 近藤兼松(二七三七番)

5  別表五について

(一) 次の者は、証拠調べの結果、被告主張の強迫に基づき署名がなされたことが明らかである。

(1) 嶋田幸子(二三九六番)

(2) 嶋田靖忠(二六六七番)

(二) 次の者は、証拠調べの結果を踏まえても、強迫に基づく署名でないことの立証は尽くされていないと思料される。

信太与子松(二五〇〇番)

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1項のうち、原告らが田村町長の解職請求代表者であり、昭和六〇年二月二〇日から同年三月一九日までの間に別表一ないし七の各氏名欄記載の者(合計一五一人)を含む合計二八四三人の有権者から同町長の解職請求の署名を収集したとして同年三月二一日右署名簿を被告に提出したこと、請求原因2項の事実、同4項のうち、本件解職請求に必要な有効法定署名者数は二五六四人であり、被告が同年四月一〇日に二五九九名の署名を有効としたが、その後異議申立により有効署名数を二五三〇名と決定したこと、以上の事実は、原告らと被告の間では争いがなく、補助参加人はこれを明らかに争わないから自白したものとみなす。

二  別表一について

別表一の氏名欄記載の八三名の署名の名下の指印が識別可能であるかについて判断する。

地方自治法八一条一項は、「選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一以上の者の連署を以て、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。」と規定し、同法施行令一一六条、九二条一項によれば、解職請求代表者は、選挙権を有する者に対し、解職請求署名簿に「署名をし印をおすことを求めなければならない」とされている。このように、解職請求の署名の収集にあたり、署名簿に署名するだけでは足りず押印まで要求されている趣旨は、解職請求に賛成して署名簿に署名する者の意思を明確にし、かつ後日、本人の署名かどうか争われた場合に他との異同の識別に役立てるためであると考えられる。そして、右の「印を押す」ことには指印(拇印)を押捺することも含まれると解されるが、指印の場合には必ず署名した本人が自己の指印を押捺することを要するのであり、その異同の識別は指紋によつて行なわれるから、指印として有効であるためには、人の指印と認めるだけでは足りず、指印がある程度の大きさと相当の鮮明さにより顕出され、指紋を構成する隆線が他と比較対照し得ることを要するものと解するのが相当である。しかし、署名については自署であることが要求されるのであるから、署名及び指印が本人のものであるかどうかが問題になつた場合には、その判定のために署名の筆跡を対照することが可能であることに鑑みると、指印が有効な押印であるためには、警察の指紋分類法のように、厳格に隆線の固有の特徴を複数確認できることや被告及び補助参加人が主張するような、外国人登録事務取扱要領に準拠したものであることまでは必要としないというべきである。なお、指印が有効であるか否かを判定するに際し、署名簿原本の指印を検するのに拡大鏡を用い、又は証拠として提出されたその拡大写真(甲第六号証の一ないし六三)を参照することは、なんら妨げられない。

そこで、右の見解のもとに別表一の氏名欄に記載の者の各署名の効力を判断するに、弁論の全趣旨により本件署名簿であると認め得る甲第一号証及び署名簿の拡大写真であることにつき争いのない甲第六号証の一ないし六三によれば、別表一のうち署名通し番号二四九、二五〇、二五一、二五三、五六六、五六七、七九一、一一三三、一一四六、一一五三、一二四五、一四七五、一五〇九、一六〇五、一六五二、一六五九、一七七五、一八〇八、一八一九、一九六六、二〇四二、二〇四三、二二三四、二二七二、二二七三、二三〇五、二三一七、二三九七、二四五八、二四六〇、二四九四、二四九八、二五二五、二五四七、二五八九、二五九一、二五九三、二六〇八、二六一〇、二六一一、二六一二、二六一四、二六九六及び二六九九の各署名下の指印は、それぞれ、その大きさ及び鮮明さが十分あるか、又は多少顕出部分が小さくても隆線が鮮明に顕出されており、本人の指印か否かを比較対照することが十分可能なものであると認められるから、これらの署名は有効であるといえる。

一方、右各証拠によれば、別表一のうち署名通し番号二七三、三二七、四九四、四九五、六三六、七五三、七五八、八六五、八九七、九三五、九三七、一〇一一、一一五二、一二七一、一四〇〇、一七五九、一八〇一、一八七四、二〇三四、二〇四四、二一一五、二二九七、二三九〇、二三九八、二四〇一、二四五七、二四六九、二四七〇、二四九五、二五四六、二五九〇、二六〇九、二六一七、二六二三、二六七四、二六七五、二七〇〇、二七四八及び二七六四の各署名下の指印は、それぞれ顕出部分が非常に小さかつたり、欠けていたり、あるいは顕出部分の大きさが十分あつても押しむらがあつたり、印肉を濃くつけすぎたり、逆に薄すぎたりしているため、隆線が全く、又はほとんど確認できなかつたり、確認できてもその部分が極めて小さいか、不鮮明であることが認められ、これらの指印によつて本人のものかどうか比較対照することは不可能、ないし困難であると考えられる。したがつて、右各署名は、地方自治法八一条二項、七四条の三第一項一号所定の「法令の定める成規の手続によらない署名」として無効なものというべきである。

なお、補助参加人は、当裁判所が有効な指印の押捺のある署名と認めたもののうち、二四九八番の高橋正の署名は本人自身が拇印を押印していない旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない(ちなみに、補助参加人主張の右事由については、被告は無効事由として主張しておらず、本件全証拠によつても、関係人からそのような理由による異議の申出がなされた事実は認められない。)。

三  別表二について

1  署名取消の成否について判断する。

地方自治法施行令一一六条、九五条によれば、解職請求者署名簿に署名押印した者は、解職請求代表者が署名簿を選挙管理委員会に提出するまでの間は、解職請求代表者を通じて当該署名簿の署名及び印を取り消すことができると規定されている。

ところで、解職請求の署名収集については、署名簿に自署押印し、資格のある受任者による収集等、極めて厳格な手続が求められているのであつて、これとの対応上からも、署名の取消に対しては厳しい手続が要求されて然るべきであると考えられるうえに、右法文の文言からしても、右にいう「解職請求代表者を通じて署名及び印を取り消す」とは、署名者本人が解職請求代表者に右取消を申出るとともに、特段の事情のない限り、解職請求代表者、又は署名収集受任者のもとにある署名簿の署名押印を自ら抹消することが必要であると解するのが相当である。これに対し、右取消申出をしなければならないのは当然として、署名簿の署名押印の抹消を求めることについては、右抹消行為には署名に自署を求めるのとは異なり、それ自体に個性が残らない場合が多いために、そこまで求める必要がないとの見解もあり得るところであろう。しかし、右に述べたところのほか、署名簿に署名をする場合と同じく、一旦した署名を取り消すについても、やはり自ら右署名の抹消をすることを求めることが、行為に慎重さを求めることになるとともに、後日の紛争を防ぐことにも役立つのであつて、これを不要とする立場に左袒することはできないといわざるを得ない。ただ、署名の取消申出を請求代表者等が応諾し、この中に、署名の抹消については、手元に署名簿がないこと等のため、後刻、同人らの手により行なつておくとの趣旨が含まれているとみられるような場合にまで右署名の抹消行為をしていないことをもつて、署名の取消が効力を生じないとするのは酷にすぎると考えられるし、また、右抹消申出に対し、請求代表者、又は受任者等がこれを拒否した場合には、右署名は「法令の定める成規の手続によらない署名」として無効となるというべきである。

さて次に、郵便による署名の取消であるが、郵便は第三者が本人に代わり発送することもできるものであり、また郵便を受領した者もその内容が本人の真意に基づくものであるかを直ちに確認することもできず、場合により事態の混乱を招きかねないため、郵便による署名の取消を認めることは、前記取消手続についても厳格さを求める立場からはちゆうちよせざるを得ないものがあるが、仮にこれを認めるとしても、郵便による取消の意思表示のみで署名の取消手続が完了するものでないことは前示のとおりである。

そこで、右の見地から本件をみるに、前示のとおり、請求代表者が本件署名簿を被告に提出したのが昭和六〇年三月二一日であるところ、成立に争いのない甲第二四号証、第二六号証及び第二七、二八号証の各一、二、乙第二号証、第五号証、第三九号証、第四五号証、第五五号証の各二、三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証、第三、四号証、第六、七号証、第九号証、第一一号証、第一三号証、第一五号証、第一七号証、第一九号証、第二一号証、第二三号証、第二五号証、第二八、二九号証、第三一号証、第三四号証、第三六号証、第三八号証、第四〇号証、第四二号証、第四四号証、第四七号証、第五〇号証、第五二号証、第五四号証、第五六号証、第五八号証、第六〇号証、第六二号証の各二、証人野呂田清の証言及び原告池内敏雄本人尋問の結果を総合すれば、同年同月一九日、本件解職請求の運動母体となつた「山本町の現状に黙つていられない会」の事務所(山本町森岳字岩瀬一九一)に、別表二(一)の氏名欄記載の者三一名を含む約四〇人を差出人とし、いずれも「山本町の現状に黙つていられない会会長池内敏雄殿」との宛名の配達証明郵便約四〇通が配達されてきたが、右池内敏雄(原告)が不在であつたので配達員がこれを持ち帰つたこと、同会の事務員から連絡を受けた原告池内が翌二〇日同事務所に赴いたところ、再び右郵便が配達されてきたこと、原告池内は、右郵便の宛名が解職請求代表者宛ではなく「山本町の現状に黙つていられない会会長池内敏雄殿」と印刷した紙を封筒に貼付したものであり、差出人の中には署名簿に署名していない者も含まれていたことから、署名取消の通知かもしれないとの懸念を抱きながらも、いやがらせの手紙かもしれないとも考え、中味を確認することなくその受領を拒否したこと、右郵便には、それぞれ差出人名義で自己の署名を撤回する旨の通知書が同封されていたこと、原告池内ら本件解職請求代表者は、郵便による署名取消の申出は許されないと考えていたが、署名者本人が自ら署名の取消を申し出てきた場合にはこれを拒否せず、署名を抹消させていたこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、右郵便がそもそも解職請求代表者に到達したものといえるかについても問題であるが、この点は、宛名の「山本町の現状に黙つていられない会会長池内敏雄殿」との記載を解職請求代表者池内敏雄に対するものと善解する余地があるとしても、右郵便の送付によつて、別表二(一)の氏名欄記載の者は解職請求代表者に対し自己の署名取消の申出をしたというにとどまるのである。これらの者が真実、自己の署名を取り消す意思を有していたとしても、右郵便の送付のほかに、自己の署名を抹消するために請求代表者又は受任者のもとに赴く等の行動を現実にとつた形跡は本件全証拠によつても認められないから、いまだ有効な署名取消の手続を履践したものとはいえず、右の者らの署名につき取消がなされたものとは認められない。

したがつて、別表二(一)の氏名欄記載の者の各署名はいずれも有効なものといわなければならない。

2  次に、被告は、別表二(二)記載の佐藤悦子の署名につき、同人が受任者佐藤鋭助に対し電話で署名取消の申出をし、右佐藤鋭助がこれを受諾したから右署名は無効であると主張し、補助参加人は、佐藤鋭助や請求代表者原告池内が佐藤悦子の右申出を無視したのは取消申出の拒絶に等しいから右署名は無効であるとも主張する。

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六四号証の一、成立に争いのない乙第六四号証の二、三、証人佐藤悦子の証言によれば、佐藤悦子は、解職請求者署名簿に署名後昭和六〇年三月一九日以前の時点において、受任者の佐藤鋭助に電話をし、署名を取り消してくれと申し入れたが、佐藤鋭助からは「考え直してくれ、迷惑がかかることではないから」と言われたこと、佐藤悦子は右の電話で署名が取消になつたものと考え、それ以上に受任者に直接会つて取消を求める等の行動を全くとらなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、電話による署名の取消の可否は郵便による場合と同じく問題となり得るところであるが、仮に電話による署名の取消申出が許されるとの立場を採つたとしてみても、右認定の事実によれば、佐藤悦子は、受任者にすぎない佐藤鋭助に電話により署名取消の申出をしたにすぎないのであつて、前記署名の取消のために必要とされる署名・印の抹消もしておらず、またこれを必要としない事情も認められないから、佐藤悦子の署名についても有効な取消があつたものとは認め難い。

よつて、別表二(二)記載の佐藤悦子の署名は有効である。

四  別表三について

1  畠山香代

弁論の全趣旨により本件署名簿であると認め得る甲第二号証の一の一枚目一四六番畠山香代の署名と証人畠山香代の証言調書添付別紙の同証人の署名との筆跡の対照及び同証言によれば、右署名簿の同人の署名は本人の自署であると認められる。被告代表者尋問の結果(第一、二回)は右認定を左右せず、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六五号証の一、成立に争いのない同号証の二の記載のうち右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  高橋ヒサヨ

弁論の全趣旨により本件署名簿であると認め得る甲第二号証の一の二枚目一二五五番高橋ヒサヨの署名と証人高橋ヒサヨの証言調書添付別紙の同証人の署名との筆跡の対照、成立に争いのない乙第六六号証の五及び同証言によれば、右署名簿の同人の署名は本人の自署であると認められ、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六六号証の一、成立に争いのない同号証の四及び被告代表者尋問の結果(第一回)中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  新堀清太郎

証人新堀和子の証言によれば、二二五七番新堀清太郎の署名は、本人の自署であることが認められ、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六七号証の一、成立に争いのない同号証の三及び被告代表者尋問の結果(第一回)中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  金子悟

成立に争いのない乙第六八号証の二及び証人池内俊介の証言によれば、二四一三番金子悟の署名は、受任者である池内俊介が署名収集のため金子悟の勤務先の事務所に赴き、作業現場から戻つてきた同人に自署してもらつたこと、押印については、作業服を着替えるため急いでいた同人の了解のもとにその際、右事務所の女子事務員に同人の印鑑を押捺してもらつたが、同人もその時同じ事務所内にいたことが認められ、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六八号証の一及び被告代表者尋問の結果(第一回)中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

また、署名簿における押印は必ずしも署名者自らする必要はないところ、右認定の事実によれば、金子悟の押印は本人がしたものではないが、本人の意思に基づき他人を機関として押捺させたものと認められるから、右署名及び押印は有効である。

5  石川友一

成立に争いのない乙第七〇号証の二、三によれば、二八三〇番石川友一の署名は、同人の自署でないことが認められる。証人田村謙悦は、右署名は本人の自署である旨証言するが、右乙第七〇号証の三(異議申出審査録中の宣誓書)の石川友一の署名と弁論の全趣旨により本件署名簿と認め得る甲第二号証の一の六枚目の同人の署名とを対照すると、筆跡が異なつており、この点からみても右証言は措信し難い。他に署名簿の石川友一の署名が同人の自署であることを認めるに足りる証拠はない。

6  石川ヨスヱ

成立に争いのない乙第七一号証の二、三、証人石川ヨスヱ、同田村謙悦の各証言によれば、二八三一番石川ヨスヱの署名は同人の自署ではないことが認められる。他にこれが同人の自署であることを認めるに足りる証拠はない。

7  河田均

成立に争いのない乙第六九号証の二、三によれば、二八三八番河田均の署名は、本人の自署でないことが認められるのであり、他にこれが同人の自署であることを認めるに足りる証拠はない。

8  近藤留吉

証人近藤留吉の証言によれば、三九八番近藤留吉の署名は、本人の自署ではないことが認められ、他にこれが本人の自署であることを認めるに足りる証拠はない。

9  高橋アイ

被告及び補助参加人は、高橋アイの署名は本人が押印していない旨主張するところ、成立に争いのない乙第七三号証の一及び証人高橋久子の証言中には、右高橋久子が受任者として高橋アイの自宅で署名してもらい、その際高橋アイ本人がその印鑑を押捺した旨の記載及び供述部分がある。しかし、成立に争いのない乙第七三号証の三によれば、高橋アイは、異議申出に対する被告の審査における事情聴取の際、押印は自分でしていない旨述べたことが認められ、証人高橋アイの証言中にも、同人は署名簿に自署したが、すぐに気が変わつて受任者に対し取り消してくれるよう頼み、印鑑の押捺はしなかつた旨の供述部分があり、これらと対比すると前記乙第七三号証の一の記載及び証人高橋久子の供述部分はにわかに措信し難い。他に高橋アイ本人が押印したことを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、高橋アイの署名は無効である。

10  桜庭サヱ

証人桜庭藤一郎の証言により真正に成立したものと認め得る甲第三一号証の「サクラバサヱ」の署名と弁論の全趣旨により本件署名簿であると認め得る甲第二号証の二の三枚目の一二六二番「サクラバサヱ」の署名とを対照すると同一筆跡であることが肯認でき、このことと同証人の証言によれば、右署名簿の桜庭サヱの署名は本人の自署であると認められる。被告代表者尋問の結果(第一、二回)は右認定を左右するに足りず、他に右認定を左右するに足りる証拠もない。

11  佐々木エス

弁論の全趣旨により本件署名簿であると認め得る甲第二号証の二の一八五一番の氏名欄には「ササキエス」という署名があるところ、成立に争いのない乙第七五号証、第七六号証の一、二には佐々木エスが署名簿に自署した旨の記載がある。しかし、成立に争いのない乙第七六号証の三(異議申出審査録中の佐々木エスの宣誓書)及び被告代表者尋問の結果(第一回)によれば、佐々木エスは、異議申出審査の際の宣誓書に「スエ」としか書くことができなかつたことが認められ、また右乙第七六号証の三の「スエ」の筆跡と前記甲第二号証の二の「ササキエス」の筆跡とを対照しても同一筆跡とは認め難く、これらの事実に照らすと前記乙第七五号証、第七六号証の一、二の記載は措信できない。他に同人の署名が自署であることを認めるに足りる証拠はない。

12  新潟嘉太郎

原告川村忠雄本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認め得る甲第三二号証の新潟嘉太郎の署名と弁論の全趣旨により本件署名簿と認め得る甲第二号証の二の五枚目の二七五三番新潟嘉太郎の署名とを対照すると同一筆跡であることが肯認でき、このことと同原告本人尋問の結果によれば、二七五三番新潟嘉太郎の署名は本人の自署であると認められ、被告代表者尋問の結果(第一回)中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

13  河田ヒデ

成立に争いのない乙第七九号証の二及び被告代表者尋問の結果(第二回)によれば、河田ヒデは本件解職請求当時重病で署名できる状態ではなかつたことが窺われ、成立に争いのない乙第七九号証の一、第八〇号証中、同人の署名が自署である旨の記載部分はにわかに措信し難く、他に右署名が本人の自署であることを認めるに足りる証拠はない。

五  別表四について

1  茎沢正幸

茎沢正幸の署名収集についての受任者が茎沢久信であることは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第八四号証の二、三、証人茎沢正幸の証言によれば、茎沢正幸のところへ署名を収集に来たのは石川三男であつて茎沢久信は収集に来なかつたことが認められる。成立に争いのない乙第八四号証の四の記載のうち右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、茎沢正幸の署名は受任者以外の者の収集によるものであるから無効である。

2  新潟ヒデ

新潟ヒデの署名収集についての受任者が寺山良秋であることは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第八五号証の二、三、同号証の五によれば、新潟ヒデのところへ署名を収集に来たのは寺山良秋ではなく他の者であつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、新潟ヒデの署名は受任者以外の者の収集によるものであるから、無効である。

3  湊静江

湊静江の受任者が湊政彦であることは当事者間に争いがないところ、右湊政彦が湊静江の署名を収集したことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丙第一号証によれば、湊静江は仙台市に滞在中に湊政彦から署名簿を郵送され、これに署名して返送した事実が認められる。

したがつて、湊静江の署名は受任者の収集によるものとはいえず、無効である。

4  伊藤千代子

伊藤千代子の署名収集の受任者が池内桂であることは当事者間に争いがないところ、証人伊藤千代子、同池内桂の各証言によれば、伊藤千代子の署名は池内桂が収集した事実を認めることができる。成立に争いのない乙第八七号証の四には伊藤博泰が署名収集に来た趣旨の記載があるが、右各証言によれば、池内桂が伊藤千代子のもとに署名収集のため赴いた際に伊藤博泰も同行していたので、伊藤千代子が被告の事情聴取の際に署名収集に来た者として伊藤博泰の名前を挙げたにすぎないことが認められるから、右乙第八七号証の四の記載は右認定を左右するものではない。

右認定の事実によれば、伊藤千代子の署名は有効である。

5  佐々木キヱ

佐々木キヱの署名収集の受任者が阿部源孝であることは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第八八号証の二、証人阿部源孝の証言によれば、佐々木キヱの署名は阿部源孝が収集した事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、佐々木キヱの署名は有効である。

6  近藤喜美雄、近藤和男、近藤純子、近藤金良、近藤トヨ子

右五名の署名収集についての受任者が寺山良秋であることは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第九〇号証の二、三、第九二ないし第九九号証の各二、三によれば、これらの署名はいずれも寺山良秋が収集したことが認められ、被告代表者尋問の結果(第一回)中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

したがつて、右近藤喜美雄外四名の署名はいずれも有効である。

7  近藤兼松、近藤ヨシヱ、近藤常幸、近藤幸子、近藤鉄五郎

右五名の署名収集についての受任者が三村一雄であることは当事者間に争いがないところ、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三五号証、成立に争いのない乙第一〇三号証の二、三、証人近藤兼松の証言によれば、これらの署名は三村一雄が収集したことが認められ、成立に争いのない乙第一〇〇号証の五、第一〇三号証の五、第一〇五号証の三の記載のうち右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかし、弁論の全趣旨により本件署名簿であると認め得る甲第三号証の二の一二枚目の二七三七番ないし二七四〇番の氏名欄の「近藤兼松」、「近藤ヨシエ」、「近藤常幸」及び「近藤幸子」の各筆跡と前掲乙第一〇三号証の三(異議申出審査録中の近藤幸子の宣誓書)の「近藤幸子」の筆跡とを対照すると、いずれも同一筆跡であることが認められるところ、成立に争いのない乙第一〇〇号証の二、三、前掲乙第一〇三号証の五、前掲証人近藤兼松の証言によれば、前記署名簿の「近藤兼松」、「近藤ヨシエ」及び「近藤常幸」の各署名は近藤幸子が代筆した事実が認められる。成立に争いのない乙第一〇〇号証の一、同号証の五、第一〇一、一〇二号証の各一の記載中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

したがつて、近藤幸子及び近藤鉄五郎の各署名は有効であるが、近藤兼松、近藤ヨシヱ及び近藤常幸の各署名は無効というべきである。なお、原告らは、右各署名について被告が受任者以外の者の収集であるという理由で無効としながら後に自署でないという理由を追加することは不当である旨主張するが、地方自治法八一条二項、七四条の二第八項所定の署名簿の署名に関する訴訟は、当該署名の効力の有無を訴訟の対象とするものであり、また、選挙管理委員会は、その委員の選任方法からみても、署名の効力の判定について、それほど専門的、技術的に高度の能力を期待されているとは思われないうえ、短時日に異議に対する決定をしなければならないため、例えば署名の無効原因が複数ある場合に、そのいずれについても慎重に審査をしなければならないものではなく、その一つについてのみ審査判定してこれを無効とすることも許されるというべきであつて、このような異議決定手続の性質からしても、被告たる選挙管理委員会は、異議に対する決定において署名を無効とした理由以外の無効事由を右訴訟において主張することも許されるものと解するのが相当であるから、原告らの右主張は採用の限りではない。

六  別表五について

1  田村靖子

成立に争いのない乙第一〇六号証の二、証人田村靖子の証言によれば、同人は受任者である叔父の山田孝雄から署名を求められた際、家族がリコールに反対だつたことから一旦断わつたが、右山田から「誰にもわからないから」と言われたので署名したこと、しかし、右山田から私生活のことを言われたとか、強い口調で求められたとかということはなかつたことが認められる。右事実によれば、田村靖子の署名は強迫に基づくものとはいえない。被告は、右署名が強迫によるものでないとしても詐偽による署名であると主張する(なお、被告が強迫によるものとして無効とした署名につき、訴訟において詐偽の主張を追加することも許されると解する。)が、地方自治法八一条二項によつて準用される同法七四条の三第二項所定の詐偽とは、署名の目的をいつわつて署名を求め、その他これに類する偽計を用いて人を欺罔して錯誤に陥らせる行為をいうと解されるところ、「誰にもわからないから」というような言葉で署名を勧誘された者が、これを信じて署名したとしても、解職請求の署名簿と認識して署名した以上、詐偽による署名とはいえないというべきである。したがつて、田村靖子の署名は詐偽による署名であるとも認められない。他に右署名が強迫又は詐偽によるものであることを認めるに足りる証拠はない。

2  嶋田幸子

成立に争いのない乙第一〇七号証の二、証人嶋田幸子の証言によれば、同人は山本町でクリーニング業を営んでいるところ、商売上の取引のある同町森岳温泉の旅館五月館に集金に赴いた際、社長の川上一男から署名を求められ、署名に応じなければ丸富ホテルとの取引を断わられるかもしれないと言われたこと、丸富ホテルとは取引額も大きく、同ホテルの社長と右川上とが懇意の間柄であることを知つていたので、同人はもし署名を拒否すれば同ホテルとの取引がなくなるかも知れないと考え、これを恐れて署名したことが認められる。右認定に反する証人川上一男の証言は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、収集受任者である川上は嶋田幸子に対し、その生活の基盤である家業のクリーニング業に支障をきたすかのような言辞を用いて署名を求めたというのであつて、川上のした右行為は手段としても卑劣であり、署名運動としても許される枠を超えているというべきであつて、川上は右嶋田に対し、害悪を示して同女を畏怖させ、その結果、署名をするか否かについて同女の自由な意思決定を妨げたといわざるを得ず、右嶋田の署名は強迫によりなされた無効のものというほかはない。

3  信太与四松

同人に関する被告の主張は、病床で看護してもらつた嶋田シズエから書くように責められ断わり切れずに署名したというもので、強迫の主張としては具体性に欠けるうえ、証人小野忠昭の証言によれば、信太与四松が署名する際には、特に右嶋田から「責められる」というような情況もなかつたことが窺われ、他に強迫の事実を認めるに足りる証拠はない。

4  嶋田靖忠

成立に争いのない乙第一〇九号証の二、証人嶋田靖忠の証言によれば、同人は両親とともにクリーニング業に従事しているところ、取引先の丸富ホテルに集金に赴いた際、社長の伊藤博造から署名簿に署名しないとクリーニング料金を支払わない、今後の取引もしないと言われたので、代金の支払を受け取引を継続してもらうためにやむなく署名したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、嶋田靖忠についても前記嶋田幸子の場合と同じであつて、嶋田靖忠の署名は強迫によりなされたものというべきである。

5  小山内劉治

証人小山内劉治の証言中には、同人は塗装業を営んでいるところ、受任者の安藤良治から「これからのこともあるし、いろいろつきあいもあるから署名してくれ」と言われ、署名すれば仕事を回してもらえるような口吻であり、また署名しても公表されることはないと言われたので、もともとリコールには反対であつたのに軽率にも署名したとの趣旨の供述部分がある。しかし、同証言によつても、小山内が安藤から強迫されたという情況は窺えないのみならず、右供述のような事情があつたとしても、同人の署名は詐偽によつてなされたものともいえない。

七  別表六について

1  大越ユキ

大越ユキの証言によれば、同人は本件解職請求に賛成して進んで署名したが、後に署名簿が縦覧され、娘婿が町役場に勤めている関係から署名したことが具合が悪くなり、虚偽の理由を記載した異議申出書を提出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右によれば、同人の署名が被告主張の詐偽によるものでないことは明らかである。

2  杉木てるよ

被告の主張事実によつては、いまだ杉本てるよの署名が詐偽によるものとはいい難いから、その主張自体失当である。

八  別表七について

成立に争いのない乙第一一五号証によれば、島田昭子は、通称名「照子」であることが認められるところ、弁論の全趣旨により本件署名簿と認め得る甲第四号証の一七番の氏名欄を検するに、極めて乱雑な字体であるため、一見して「島田昭子」ないし「島田照子」と判読することはかなり困難であるといわざるを得ないが、精査すれば「島田照子」と記載されているものと認め得るから、右署名は判読不能とはいえず、地方自治法八一条二項が準用する同法七四条の三第一項二号所定の「何人であるか確認し難い署名」であるとはいえない。

したがつて、右署名は有効というべきである。

九  結論

以上によれば別表一ないし七の氏名欄記載の者の署名のうち、左の者の署名は有効であり、その余の署名は無効である。

(1)  別表一のうち二四九番、二五〇番、二五一番、二五三番、五六六番、五六七番、七九一番、一一三三番、一一四六番、一一五三番、一二四五番、一四七五番、一五〇九番、一六〇五番、一六五二番、一六五九番、一七七五番、一八〇八番、一八一九番、一九六六番、二〇四二番、二〇四三番、二二三四番、二二七二番、二二七三番、二三〇五番、二三一七番、二三九七番、二四五八番、二四六〇番、二四九四番、二四九八番、二五二五番、二五四七番、二五八九番、二五九一番、二五九三番、二六〇八番、二六一〇番、二六一一番、二六一二番、二六一四番、二六九六番、二六九九番

(2)  別表二(一)及び(二)の全部

(3)  別表三(一)のうち一四六番、一二五五番、二二五七番、二四一三番、同(二)のうち一二六二番、二七五三番

(4)  別表四(二)のうち一〇九七番、一三五二番、二七三一番、二七三二番、二七三三番、二七三五番、二七三六番、二七四〇番、二七四四番

(5)  別表五のうち二一七〇番、二五〇〇番、二八〇四番

(6)  別表六の全部

(7)  別表七の一名

よつて、原告らの本訴請求は、右各署名に関する異議に対して被告がなした決定の取消及び右署名が有効であることの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 福富昌昭 小松一雄 稻葉一人)

別表一~七〈省略〉

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